どっちだっていいか 満月だ

カテゴリ:本( 17 )

料理=くりん

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美人で可愛らしくて聡明で凛としていて。
住まい方や生活の匂いがちゃんと届くような佇まい。
好きです。憧れです。

仕事柄、料理本を手にすることが多い私だけれど、
この本は・・・『自分の宝物本』に、と買ったもの。
手にした時から、ほっこり包み込むような温かさが伝わった。

献立は日々のご飯だったりして、つつましい感じがいい。
所々に綴られた文章の優しさがいい。


ここんとこのマイブームは、『料理=高山なおみ』のレシピを、
一つ一つ忠実に再現すること。
昨夜は、『じゃがいもの円盤焼き』と『オムライス』を作った。
我ながら美味しく出来ました。

ダンナ様が三日留守にされた時、高山さんは気づいたのだという。
「料理って、おいしく作ろうと思わなければおいしくできないということ」を。
・・・ほんとに、そう思う。
こういうところが、いちいち私の琴線に触れてゆく。


十年前、料理家の高山なおみさんの綴られた文章に初めて触れた。
その文才に驚いた。心がゆらりと揺れた。
文筆家としても好きになった。

『日々ごはん』も欠かさず読んでいる。
等身大に生きてる姿が、素敵。


謙遜なのか、必要以上に自分を小さく見せようと振る舞う人って、
ちょっと苦手で疲れてしまう。
自分にとっての美徳なのかもしれないけれど。
もっと普通にしたら、もっと素敵なのにと感じてしまう。

高山なおみさんは、
自分を大きく見せることをしない。
そして小さく見せることもしない。
生活人としてのたくましさやしなやかさを感じる。


一冊分のレシピの料理を作ってみたいな。
「おいしく作ろう」って思いながら、
丁寧に一つ一つ作ってみたいな。

ゆるりと流れてゆく私の好きな時間。
等身大の私で。
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by kurin1022 | 2014-05-12 11:54 | | Comments(2)

「また、必ず会おう」と誰もが言った。

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本のソムリエのイチオシ本だという話題作を読んだ。
副題に・・・「偶然出会った、たくさんの必然」とある。
一時間もあれば読み終わってしまう。
喜多川泰氏の本は、初めて手にした。
経歴に学習塾創立者とあって、
ああ、先生の書く筆だな・・・と妙に納得。

高三の夏休み。旅先でのいろんな人との出会いの話。
トラックの運転手さんとの出会いがいちばん好き。
こういう大きな大人との出会いは宝だね。
「ワシはなぁ、娘に好かれたいんやのうて、
 幸せになってもらいたいだけや」
・・・父と重なってしまい、一瞬涙が溢れてしまった。


心に残った言葉を、ほんの少しだけ綴っておく。

あなたにとって居心地がいい場所は、
まわりの人があなたに何をしてくれるかによってじゃなくて、
あなたがまわりの人のために何をするかによって決まるの。

本当は元いた場所に、
自分にとって大切にしなければならないものは
全部あったってことね。

いちばん大切だけど、いちばん難しいことだ。
それはね、『待つ』ことだよ。



信頼して待ってくれる誰かがいるということ。
そうするだけで子供は絶対に才能を開花できる・・・とあった。
『待つ』ですね・・・心にしかと刻んでおきました。
がんばろっと!

出会う人全てが善人(とても素敵な大人)。
出来過ぎなストーリーは苦手だけれど、
ひとつひとつの言葉との出会いは、十分楽しめた。
小説として楽しむ・・・といった感じとは違うかな。

「偶然に見える全ての出会いが必然である」
そう思って生きるって心地いいな、と素直に思えた。
毎日に色を添えていくよう・・・。
いい言葉だと思う。


娘には、この先々・・・
たくさんの素敵な大人の人たちと出会って欲しいな。
私は娘に出会って欲しいと思う大人がたくさんいる。
私たちが持っていないものを持っている人たちと、
いっぱい出会って欲しい。
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by kurin1022 | 2011-09-27 16:36 | | Comments(4)

バイバイ、ブラックバード

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『バイバイ、ブラックバード』   伊坂 幸太郎


「大人にはサンタクロースが来ないなんて、
 誰が決めたんだよ」


感情的になり、こう声を張り上げた“星野”に
いつしか感情移入している自分がいた。
五股をかけてしまった、しょーもない男に。
熱くなって思わず叫んだ、彼のこの台詞が好き。

太宰治の未完の絶筆『グッド・バイ』から、
想像を膨らませた物語なのだそう。


彼の作品の・・・巧妙な伏線とそれを回収していく
典型的な描き方は皆無。
最初っから、“一つ一つ別れ話をこなしていく”という
分かりやすい展開の描き方だった。
こういう描き方もいい。
ゆっくりした気持ちで読んだ。

別れ話をした一人一人の女性に、
真面目に、誠実に、一生懸命に向き合い、
今、いちばん必要な“手助け”をしたいと願う
この真っ直ぐで正直な男から、
目が離せなくなってしまった。
心のままに、素直に生きてきた男の、
最後に見せる誠実さが胸を打つ。
一気に読んだ。

ドロドロと描くことはせず、
軽快にサラリと描いてしまうその筆は、
伊坂氏ならではの面白さ。

中でも、女優との別れを描いた話に、
ジーンとなった。

理不尽な別れに、無理やり笑って、バイバイと言う。
涙ではなく・・・ジーンと温かくなる“別れ”を描く。
別れた後も彼に思いを馳せる女性達の心境も、
淡々としていて美しく・・・心地良い。
こういうところは、まさに伊坂氏だ。


ラストもやっぱり明快なものではないが、
かといってもやもやも残らない。
リアリティは、最後まで感じることはない。
フワフワとした浮遊感の中で読み終えた。

行動を共にした“繭美”の・・・
辞書の中の自分にはいらない文字を
一つ一つ消していくその姿に、
胸の奥のやわらかい場所が、
きゅんと軋んだ。


そして・・・
この綺麗な装丁。びっくりした。
なんだか、伊坂氏のソレとは思えず、
手にしていても、他の人の本のような気がしてしまい、
ちょっと・・・落ち着かなかった。
ベージュと水色の二本の紐の栞が付いていて、
なんとも素敵。


太宰の『グッド・バイ』は・・・読んでいない。
こちらは十人もの愛人に、
「グッド・バイ」を言うんだそうな。
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by kurin1022 | 2010-10-29 20:45 | | Comments(2)

この世でいちばん大事な「カネ」の話

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娘が、“職場体験”に二日間行く。
本屋の希望が通り、そこで、“働くということ”を学ぶ。
(本屋で働くったって・・・漫画は読めんぞ!)
「やりたいことがわからない」典型的な中学一年生。
学ぶことはきっと・・・山のように大きいだろう。


“働くこと”を綴った、西原理恵子さんのこの本が好き。
『この世でいちばん大事な「カネ」の話』
・・・題名は、なんともえげつないけれど、
読んでてスッキリするし、清々しい気持ちになる。


人が喜んでくれる仕事っていうのは長持ちするんだよ。
いくら高いお金をもらっても、そういう喜びがないと、
どんな仕事であれ、なかなかつづくものじゃない。
 
自分にとっての向き不向きみたいな視点だけじゃなくって、
そういう、他人にとって自分の仕事は
どういう意味を持つのかっていう視点も、
持つことができたらいいよね。

自分が稼いだこの「カネ」は、
誰かに喜んでもらえたらことの報酬なんだ。

そう実感することができたら、
それはきっと一生の仕事にだって、できると思う。



最近、今の仕事を辞めようかと、悩んでいた。
綺麗事じゃなくって、
「ここで、まだ、やってみよう」と思ったのは、
「ありがとう」って言葉だった。

今日も職場で、「ありがとう」の言葉を
・・・少なくとも7回はもらった。



西原さんの描く“息子”の漫画。
温かくて優しい気持ちになる。


   “風”

いつの間にか 
君のまわりには
ちがう風がふいてるよね。

きっとあたらしい
できたての風なんだと思う。

私は君を 
うしろからみてるのがすきだけど
君は走ってばかりだから
びゅうびゅうと風をのこして
すぐみえなくなる。

ねえ 風はどこからふいてくるの
ずいぶんまえの君のしつもん。

山からふいてくると思う。
あと、海から 雲から 木から 
谷から 川から ビルから 道路から 
となりのくっさい犬から
亀の水そうから

あと 君から 



子どもが、いろんな風をまとって、
「ただいま」と帰ってくる。
今日は、どんな風を連れてくるのだろう。

「おかえり」と言う時間が好き。
自分の知らない空気を感じる瞬間。

こんな毎日に・・・
「ありがとう」
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by kurin1022 | 2010-10-26 07:30 | | Comments(2)

予定日はジミー・ペイジ

“角田光代”を三冊読んだ。

『予定日はジミー・ペイジ』

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こりゃあ間違いなく、タイトル読みするでしょ!

“妊娠”って、突然やってくる。
待ちに待った待望の、って夫婦もいるだろうし、
ふいにやって来た、って夫婦だっているはずだ。

ダンナさんの優しく真っ当な対応がいい。
いいお父さんになるだろうな。

“おめでた”なんて言うけれど、
そういう言葉がしっくりこないと思う女性だって、
いて然りだと思う。
実際・・・こういう女の人は、案外、
いい“かあちゃん”になるんじゃないかな。

“子育て”は、“自分育て”という言葉を聞く。
無理せず自然に、“妊娠”を受け入れ始めていく主人公。
子供と一緒に成長していくのであれば、
最初っから(お腹の中にいる時から)、
いきなり“母”にならなくてもいいわけだものね。

初めて居酒屋で胎動を感じた日の日記に、
ちよっとだけ泣いた。

「二人きりの最後の大晦日」
「二人で食べる最後のラーメン」
・・・ことあるごとに語り合う二人。
三人でできる行事をしりとりのように言い合い、
“子どもとするいろんな初めてのこと”を思う。

「私たちは三人になり、
 海や山やレストランにいくのにも、
 三人で出かけていくのだろう。
 三人と二人は絶対的に違うだろう」
という話のくだりが好き。

「ああ、そうだ・・・こんな風に思っていたっけ」
自分の“妊娠”の頃を思い出していた。
懐かしさで、じんわり温かくなった。

ラストは、胸が熱くなった。
読んで良かったな、と思った。

無防備に“妊娠”を喜べない“心のひだ”を、
淡々と描きながらも、
しあわせな匂いのする本だった。


そう言えば・・・
私の場合は、『予定日はくりん(私)』だった。
娘は、予定日(私の誕生日)の翌日に生まれた。
「一緒がいいな」と思っていたけれど、
今となっては、違って良かった・・・と心底思う。




『だれかのいとしいひと』

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八つの恋愛短編集。

いちばん好きだったのは、
『ジミ、ひまわり、夏のギャング』。
風景がずっと浮かんでいた。
夏のゆらめく暑さの中の・・・。

「つまりナンバリングを永遠に続けるようなこと」
この一言にすべてが集約されている感じがする。
“思い出アルバム”なんて、陳腐な言葉が浮かんでくる。
何年経っても、思い出してしまうんだろう。
庭中のひまわりと一緒に。
こういう風景は、きっと誰にだってある。
忘れられない、色褪せない心の中の風景は、
きっと誰にだってある。

あとは、
『誕生日休暇』が、好きだった。

最後の物語『海と凧』で、
フリスビーをしながら、どちらともなく笑い出す描写が、
短編集のラストだった。
こういうところが・・・巧いな、と思う。


どちらかというと、
代表作『対岸の彼女』なんかに比べると、
やや物足りなさが感じられた読後感。



『愛がなんだ』

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「テルちゃん・・・あんた、もっと自分を大切にしなよ」
お節介にも、何度もそう言ってあげたくなった。

“都合のいい女”“一歩間違えばストーカー”
・・・正直、イラついて仕方なかった。
自分に恋愛感情を持たぬ男に、尽くしまくるバカ女。
執着心。尋常でない行動と感情。
・・・ほんとにイラつく女だ。

こんな風に生きていくことは到底難しいし、
不可能にも近いのだけれど・・・
角田さんの書く主人公には、
読み進めていくうちに、リアリティが増していき、
そのスピードがどんどん速くなっていく、
そんな不思議さがある。

周りには尋常とは見えない“恋愛の姿”で、
呆れてしまうほど、好きな男にのめり込む。
でも、そんな時こそが、長い人生の中で・・・
“愛する”ことのいちばんの醍醐味なのかもしれない。

バカ女の“へばりついた恋愛”を読んで、
呆れつつも、そんな気持ちにさせちゃうあたりが、
角田さんの魅力だと思った。


「愛ってなあに?」と、
最後まで問い続けているような小説だった。

自分自身をなくしてまでも、
自分の“愛する”という感情を尊重し、
最優先にした・・・呆れるほどのエゴイスト。
テルちゃん、あなたはきっと、
自分がエゴイストであるなんて、
一ミリたりとも思いはしないんだろうね。
むしろ、耐える尽くす女ってトコだろう。
自分をなくしたら・・・幸せは見えない。
自分をなくした女を、心から愛する男はいないのに。

「愛がなんだ」と、開き直って自分を見つめ直し、
“自然なありのままの自分”を尊重した時に、
幸せが掴めるんじゃない?テルちゃん。
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by kurin1022 | 2010-10-22 23:30 | | Comments(8)

神様のカルテ

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「神様のカルテ」   夏川草介

真っ白な本の表紙に、
カスヤナガト氏の装画がひとつ載ったシンプルな装丁が好き。
2010年本屋大賞二位の話題作。


妻を愛し、「夏目漱石」を敬愛し、「草枕」が愛読書。
最先端医療の大学病院よりも、
24時間対応の信州の小さな病院で働くことを選んだ若き医師。

「草枕」を暗記までしている主人公。
よって・・・一人称の独特な古風な語り口で綴られていく。
読んでいくうちに、不思議とその文体にハマっていき、
いつの間にか引き込まれて、妙に心地良くなってしまっている。
そんな温かさがある。

これは、泣く本だ・・・と、承知していた。
第二話の「門出の桜」の学士殿の旅立ちのシーンあたりから、
しっかり・・・目頭が熱くなった。

「学問を行うのに必要なものは、気概であって学歴ではない。
 熱意であって建前ではない」
・・・こういう台詞が、ページをめくる度、随所にある。
清らかで爽やかな温かさに満ちた・・・読書の時間となった。


「綺麗に人生を生きる」ということは、こういうことなのかな。
「天国よりめいっぱいの感謝をこめて」・・・の別れの手紙を読み、
「安曇さん」の優しさ、大きさ、清らかさに涙が溢れてしまう。

夫が、仕事で結婚記念日をすっぽかしても微笑んで迎え、
黙って美味しいコーヒーを淹れる妻。
「細君のハルさん」との夫婦の関係が、ほんとに美しい。

この本を読んで、いちばん強く感じたのは
「夫婦の在り方」だった。
夫婦として、共に人生を美しく尊く生きたいな・・・なんて、
ガラにもなく素直に思わせてしまう・・・「綺麗な小説」だった。


たまたま、この本を読んですぐ・・・
「一流スポーツマンの親子特集」という番組をテレビで観た。
どの親子にも共通していたことは、
「出世よりも、子どもといる時間を大切に思うこと」だった。
たとえ出世してたくさんお金を稼いだとしても、
子どもと関わる時間が持てなかったら、それは本末転倒だ、と。

ほとんど家には帰れないほどの忙しさの、この本の主人公。
子どもはいない夫婦だけれど。
重ねてしまい、いろいろ(余計なことを)考えてしまった。

三日間で睡眠は三時間・・・といった
地方の救急病院の医師の過酷な仕事の様子が、
最初から終わりまで、刻々と語られている。
医師として、最期の「神様のカルテ」を考えるくだりに、
胸が熱くなった。

夫の仕事を尊ぶ気持ちは、夫婦の間でとても大切なことだと思う。
私も、夫の仕事は家庭の中で何より大切に大事に思うし。
すべての(生きていく)柱なわけだしね。

妻のハルさんなら、「尊敬申し上げます」なんて、
素直に夫に、感謝の気持ちを告げるんだろうな。
私は、(絶対)言わないけどね。

「子どもと過ごす貴重な時間は、期間限定なわけで、
 12歳までの間、しっかり関わっていないと取り返しがつかない」
北京オリンピックの銀メダリストの太田雄貴選手のお父さんが、
番組の中で、淡々とそう話されていた。
ほんとに、そうだよな。期間限定なんだよな、としみじみ思う。
娘は、もう12歳になっているけれど。


かけがえのない大切なことを、大事にしたいと思う。
過ぎていく時間は、後戻り出来ないんだし。
一日の夕方、仕事帰りに・・・
「元気に育ちますように」と赤ちゃんのおでこにハンコを押す
「初山」で賑わう神社の前を通った。
今、中学生の娘。周りでは、「恋バナ」が飛び交っている。
あの日・・・ハンコをペッタンされてにこにこ笑っていた、
浴衣に身を包んだ小さな赤ちゃんだったのにな。
ほんとに、あっという間に時が過ぎていくんだね。


「大切だと感じること」を、二人で尊く思えること。
「美しく綺麗な夫婦」として、この先ずっと時を重ねていける、
大切な秘訣なのでしょう、きっと。
そんな風に素直に思ってしまう・・・そんな読後感。

綺麗な気持ちに包まれるって、いいな。
たまには、素直なピュアな心になる時間を持たなきゃ。

綺麗な心になりたくなったら・・・お薦めです。
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by kurin1022 | 2010-06-03 17:46 | | Comments(4)

思い出は美しいままで 笑ってる この胸の奥で

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「桐島、部活やめるってよ」   朝井リョウ

たまたま何気なく映していたテレビで、
早稲田のストリートダンスサークルで
仲間と踊っている若者を見た。

『小説すばる新人賞』を取った時、
「そんなばかな」・・・が周りの反応でしたね。
小説を書いていることは
周りの誰にも教えていなかった、と話す。
サークルの練習も、執筆中はサボり気味で
・・・やっぱ、気が引けましたし。

涼しげな表情でそう話す普通の大学生。
彼の書いたその小説を・・・読んでみたくなった。


本当は、世界はこんなにも広いのに、
僕らはこの高校を世界のように感じて過ごしている。


高校生の感覚がなくならないうちに書きたかった、と話す。
学生服がまだ近くに感じる人じゃないと、
ここまでリアリティーのあるものは書けないだろう。

五人の同級生が、高校生活をそれぞれの視点から語る。
オムニバスの形で描き、「桐島クン」自身は
最後まで語ることがない。センスがいいな、と思う。

娘が読むケータイ小説と同様の、会話や短文の羅列に
少々疲れたりもするが、時々キラリと光る言葉がいい。

熟れたトマトでもつぶすように、心臓が
上からぐしゃりとされたような気分になる。



誰もが高校生の時に経験する、階層意識が話の軸だ。

高校って、生徒がランク付けされる。
上か下か。この判断だけは誰も間違わない。


気づかない振りをするのを得意とし、
自分で勝手に立場をわきまえ、
同級生間の確固たる位置を甘受しているように装い
己を確立している、そんな繊細な心の揺れ。

冴えない下のランクの奴が、実は眩しく見えていたり、
表面じゃない誰にも言わない内面のランク付けを、
常に冷静に客観的に描いているところに、読み応えがある。

風助の心の描写に、同世代の筆者の
今しか出来ない筆運びが光った。

悲しそうな、残念そうな顔をしろ。
耳元で俺が俺に囁いた。
俺は嬉しいんだ。桐島がいなくなって。
考えれば考えるほど、自分がどんどん
嫌な奴になっていくから、結局蓋をする。



青春って、見栄や建前という鎧をまといながら、
何かを渇望している自分自身にしか語れないその思いを
カバンの底にしまい込んで、歩いて行くんだよねえ。
いつの時代も。

俺はどんどん重くなっていくカバンと戦っていた。

思春期の微妙な心の描写に、あの頃を思い出していた。

この胸の奥で・・・
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by kurin1022 | 2010-04-08 15:02 | | Comments(4)

観覧車はセピア色の青春の中に

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「吉祥寺の朝比奈くん」   中田永一

五人の作家が紡いだ短編集「I LOVE YOU」を、
伊坂幸太郎目当てで読み、この作家を知った。
『百瀬、こっちを向いて』という作品だった。
高校生の恋愛の青く息苦しい思いを繊細に描いた、
瑞々しい感性の小説だった。
新人作家なのかな。
また、この作家の作品に触れてみたいと思った。

気になるこのタイトル。これは読まねば。
五つの恋愛小説の短編集。
叙情に溢れた優しい描き方をする作家だ。
この人の筆運びは好き。
どんどん心が透明になっていく感じがする。


『交換日記はじめました!』

交換日記なんて、ノスタルジックで・・・いいじゃない。
今はしないのかな。こんな非合理的な・・・素敵なこと。
最初がこの話だったのが、良かったな。
一気に、高校生の「青春」してた頃の自分に戻る。
日記に第三者が巻き込まれていく展開が絶妙。
人々の愛情に触れながら、ホロリとおちていた。


『三角形はこわさないでおく』

高校生のベタな三角関係が、甘酸っぱくていいな。
「恋愛感情」を抑えようとする「友情」に、
悩みながらも折り合いを付けていく。
そんな、心が少しずつ成熟していく過程の描写が好き。
打ち明けることはないが、感じているお互いの心の気配。
心の機微に丁寧に触れていて、優しい気持ちになる。

三つの点にはそれぞれの悩みがあり、性格があり、
人生があり、おもいやりがある。
二辺の長さの和が、のこりの一辺の長さよりも大きければ、
三角形はこわれない。


三角形をいつまでも維持するのかは分からない。
その形が、ゆっくり崩れたっていいんじゃない。
アナタたちは、別の形や距離をきっと作っていけるよ。
お節介だけど、そう言いたくなってしまう。
そんな爽やかさだった。


『吉祥寺の朝比奈くん』

最後のタイトルの作品が、何と言っても秀逸。
不貞の心を描いた作品で、心がこんなに爽やかで
温かくなったモノは初めてだ。
こういう筆運びって、読んだことがなかったかも。

恋愛感情がゆっくりと芽生えていく・・・その心の揺れを
繊細に描いている。どんどん引きこまれた。
不貞に対する罪悪感も。恋愛感情も。人としての深い愛も。
こんな風に丁寧に描いた作品は、読んでいて気持ちがいい。

最後に待っていた、どんでん返し。
何でもない台詞。キュンと好きだったのにな。

「・・・何だろう、それ。僕にはよくわからないな。
 山田さん、指に、なにかついてますよ」
彼女の左手の薬指には銀色のリングがはまっていた。


けれども・・・私を落胆させたのは、束の間の時間だった。
やっぱり、この作家の筆だもの。裏切らないねえ。
ラストは、しっかり・・・優しい気持ちに包まれていた。
人として、きちんと人を愛していきたいな。
不倫の恋を描き、そんなことを思わせてしまうことの妙。


読み始めた途端に、ノスタルジックな世界に連れて行き、
澄んだ温かな空気で終わるのかと思いきや、毒を入れ、
また・・・いつしか優しい空気に包み込んで終わる。
そんな五つの作品の流れが巧い。

情景がくっきりと浮かび、読んだ後はセピア色に残った。
やっぱりね。有名作家の別ネームの作品なのだそう。
また読んでみたいと思わせる、素敵な新人作家だ。



学生服に身を包む最後の三年間って、
「青春」や「セピア色」って言葉が、ほんとに似合う。
(照れてしまうほど・・・ベタベタだけど)

昨年、大阪で昔の同僚と再会し、当時を懐かしんだ。
前の日、「ベロチュー」とせっちゃんが笑ってみせた
「HEP FIVE」の赤い観覧車の前で待ち合わせた。

やっぱ、男女二人じゃ乗れないよねえ。
なんか、観覧車って青春だよねえ・・・と話した。
私にとっても、元同僚にとっても・・・
観覧車には甘酸っぱい青春の思い出があるということを、
長い歳月を経て、その時初めて打ち明けあった。

別れ際、「やっぱ、乗る?」と彼が冗談っぽく笑った。
この期に及んで、青春やるってのもねえ・・・。

観覧車はセピア色の青春の中でこわさないでおく。

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      C.C.Lemonのペットボトルに付いてきたおまけ。思わず・・・にっこり。        
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by kurin1022 | 2010-04-04 10:10 | | Comments(6)

今宵も・・・Amy

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「A2Z」   山田詠美

「浮気したけど、妻が好き」
そんなのアリですか?
・・・という、公開中の映画「噂のモーガン夫妻」の
キャッチを見た。
この小説も、同じような内容だ。
結婚していながら、夫が、妻が、
それぞれの出逢いをし、それぞれの恋におちる。

どうしようもなく恋におちてしまう、その気持ち。
結婚という形や、大人の理性という形で封印することなく
純粋に、真っ直ぐに、自由に、奔放に、それぞれの恋に走る。
そして、また・・・夫に対しても、妻に対しても
心の奥に深く、大切に思う気持ちは持っている。

恋する感情が、とても瑞々しく描かれている。
清潔で、美しいAmyの文章が切なくて。
一気に読ませてしまう。

大人気のなさを楽しみ尽くせる程に、
大人なのだ。

・・・という台詞なんて、ゾクゾクして読んだ。

「あの時、会いたい優先順位は彼女が一番だったけど、
 失いたくない順位は、いつもナツだった」

その言葉は、正直な気持ち。
恋する気持ちに従順で、子供のように純粋で。
でも、決して失いたくないモノは、きちんと守っていく。
大人同士の、互いの関係のバランスをきちんと取っている、
上質な大人の愛のストーリー、と言ったところなのかな。

それぞれの恋が終わって、
やがて、また「夫婦」に戻っていく。

話したい。話し尽くしたい。聞いてもらいたい。
そして、あなたのこと聞かせて欲しい。
恋の死について語り合うのは、
大人になろうとしてなり切れない者たちの、
世にもやるせない醍醐味だ。


ただただ・・・愛おしくて。愛してしまう。
そんな、純粋な恋はいいな。素直にそう思った。
でも・・・
それだけの言葉しか、今の私には、
なんだか・・・見つけることが出来なかった。
やるせないまま、夫婦の絆が終わってしまうことだって、
想像するに難くないことなのだ。
そういうところが、きっと・・・
リアルには、届いては来なかった理由なんだ。


「横断歩道の向こうで、肩落として
 寂しそうな顔してる息子を見つけてさ。
 そんな息子の姿を見た途端・・・
 なんだか俺、ポロポロ涙が出てきちゃってさぁ・・・。
 息子には見つからないように、一人で帰ったんだけどさ」

高校入試の発表を見に行った息子さんから連絡が入らず、
居ても立っても居られずに出掛けたんだ、という
職場のオヤジ(こっそり、そう呼ぶ)。

「サイトーナントカなんて、知らねえよなー!」と、
私が出入りしている業者さんと
ライブの話で盛り上がっている時、度々割り込んできては
憎まれ口を叩いて笑っているオヤジだ。

でもね・・・
なんか、リアルでいい感じ。
なんか、リアルでカッコいいよ(こっそり、ちょっと讃える)。

暖かい春の穏やかで温かな風は、
ふいにこうやって・・・
平凡で、退屈な、リアルな日々の時間の中で、
ひょっこり吹いてくるモノなんだよね。
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by kurin1022 | 2010-03-13 16:20 | | Comments(4)

久し振りに・・・Amy

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「無銭優雅」   山田詠美  

綺麗で美しい、大人の純恋愛小説だった。

42歳の独身女、慈雨と、同年代のバツイチ男、栄。

この楽しみ、二人だけのもの。周囲なんて見えない。
社会性の欠片もなし。私たちは、傲慢な日陰者である。


中年と呼べる二人が出会い、自由に奔放に恋愛を楽しむ。
お互いを慈しみ、二人だけの日常の平凡な時間を
ゆったり共有する、そんな中年の恋愛(純愛)が美しい。

「人さまなんて気にしないで好きなもんだけに忠誠を誓う
 資格があるんだよ。ふらふらしてていいって、
 神様に認められたんだよ」


ほんとに、無邪気に、無防備に恋愛が出来るのは、
中年なのかもしれないな、と思った。
駆け引きや未来の夢の理想が、脳裏にしっかりある
20代や30代前半では、こうはいかないかも。
そして、読んでも響いてはこないかも。

40代だからこそ解る「大人の恋=オトコイ」の醍醐味。
おしゃれでもなければ、不倫の張り裂けるような気持ちで
過ごすドロドロした愛でもない。
二人で、愛おしみ甘え合い時を過ごす(それだけの)
贅沢さ、穏やかさ、幸福感。
そんな、なにものにも代えられない至福の優雅さ。

「心中する前の日の心持ちで、これからもつき合って
 行かないか?」
うっとりする。私は直感した。
この男はとても良い提案をする人だ。
得をした。やっぱり運命?
生涯、もうこの人以外の男はいらないな、と思った。


慈雨の真っ直ぐな純な愛が・・・ほんとうに綺麗だ。

独身の中年の一途な恋愛は、実際・・・アリだと思う。
リアリティーが感じられて、読んでいて楽しい。
人間って歳をとっても中身は、あまり成長しないのかもね。
でも・・・青春の頃の気持ちは、きっといつまでも
持ち続けているってことなのさ!
そして・・・
いくつもの経験を重ねてきて、
真のオトコイの醍醐味をきちんと体得していて、
感じる心の引き出しを多く持ってる中年だからこそ、
真摯に真っ直ぐに、純粋な恋に前向きになれて、
無邪気に今を楽しむことが出来るのかも。

大人の「一途で一生懸命な恋愛」って・・・なんか、いいじゃん!
ブラボー!って言いたくなるじゃん!

おまえ、と呼ばれるのはいいもんだ。
見下されている気がする。
好きな男に見下されるのを心地良いと感じる時、
恋しているんだなあ、と思う。


山田詠美の軽妙な語り口がいい。
描写がとても綺麗で、不思議と気恥ずかしさも感じなかった。
ばんざい!中年の純愛・・・だ。

贅沢にゆったりした時間を味わった感じ。
一時間半もあれば読み終えてしまう(読ませてしまう)、
楽しく、すらすらとした筆運びだった。
終わりに、歳を重ねてきたが故に背負っている
別れや思い出に触れ、しっかり泣かせてしまうところなんて、
さすが・・・Amy。

そして、心地良さの中だけで終わらせず、
最後の二行で、ドキリ・・・と放つ。
家庭をつくるという形をとらない恋愛は、
こういう不安を抱いていくってことでもあるんだね。

山田詠美は、こういうところが、切なくなるくらいに巧い。

やっぱり・・・
こんな風に、心地良く読めてしまう本は、いいな。
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by kurin1022 | 2010-03-02 21:06 | | Comments(0)



日々のあわ
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