どっちだっていいか 満月だ

ありふれた言葉

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ありふれた言葉に気持ちが入った時ほど 
深い意味をもつ物はないよ。



歌詞カードの隅っこのほうに小さく、
タカシくんの文字で書かれたそんな言葉があった。

『ありふれた言葉』は、
2005年のハナレグミの3rdアルバム
『帰ってから、歌いたくなってもいいようにと思ったのだ。』にある。
今野英明さんの曲のカバーだ。

いちいち手書きで悪戯っぽい落書きが書いてあって、
その中でも見落としてしまいそうな小さな文字で、
そう書いてあった。


自宅で録ったというアルバムの音は、
子どもの声や虫の声なんかも聞こえてきそうな
温度のある生活のノイズの中にあった。
ザラッとした素朴な音が、耳に心地いい。
このアルバム・・・私はほんとに好きなんだなぁって思う。
中でも・・・『ありふれた言葉』がいい。

この彼の声、ほんとにいいな。
自然な感じでラフに真っ直ぐに歌っていて。
ふっと力を抜いて歌うところなんて、ほんとにいいな。

震災の後、私はこの盤ばかり手にしていた。
理由などないけれど、こればかり聴いてた。
余計なものは何ひとつ要らなかったし、
知らなくていいことは知りたくなかった。

背伸びせずに素直に飾ることなく歌う彼の声がある。
それだけで・・・もう充分だった。
実際、アコギとウクレレと彼の声以外、
世の中には必要なかった。


アルバムタイトルは、
『帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。』
・・・料理家の高山なおみさんの本のタイトルから
彼がインスパイアされたであろうってことは、周知の通り。
アルバムの内容と合っていて、彼らしいと思う。

で・・・このアルバムが世に出た時、
同時に高山さんのこの本も読んだ。
ま・・・これってある意味、正統派の
ハナレグミファンとしての在り方だろうと思ったので(笑)。

私は仕事柄、いろんな料理本を見る機会が多い。
よくある手の届かない食材を使ったオサレなレシピと、
よくある料理家が書くオサレで素敵な文は、ちょっと苦手だ。
“素敵な暮らしのオサレな食卓”の押し売りに、
うんざりしてしまうことも少なくない。

・・・だって、レシピを見て作ってみたりするけれど、
見た目ばかりで美味しくないってこと多いんだもん(笑)。

高山なおみさんの綴ったその本は、
料理人のオサレな文からは遠く、どこか土の匂いがした。
小説としてエッセイとして料理本として、充分に楽しめた。

若い頃の自由奔放な自分の姿を、冷静に見つめていた。
心の中の空洞や葛藤や性なんかまで、
包み隠さず書かれていて。
言葉の中から“生々しい日常の暮らし”が溢れ出ていて、
時々キュンとさせてくれたりもした。
そして・・・ずっと“フィッシュマンズ”が鳴っている、
そんな本だった。


言葉の切り取り方が、ほんとに素敵だった。
私もこんな風に文を書くことが出来たらいいのにな。
読み終えて、何度もそんな風に思ったものだ。
そして・・・こういう年の重ね方をしたいものだ、と。

ずっと気になってた人と話が出来て、
「それ、私もそう」って分かち合えた時の喜びにも似てた。
揺るぎない毎日の暮らしの中で、
揺らぐ気持ちと変わらない心の在り方の描写も好き。

『日々ごはん』も読んでいる。文筆家として好き。
「要らないものは、触れなくてもいいようにと思ったのだ。」
・・・そんな読後感に包まれたりもするから。


いちばん好きだったハナシは『スぺーシャル・トゥー・ミー』。
大好きな映画を友人に強く薦めた時の思い出。

「なんかよくわからなかった」
申し訳なさそうに言う友人の顔をまともに見れなくて、
恥ずかしくて、自分が感動したことさえも
消してしまいたいような気持ちだった・・・というハナシだった。
私にも同じような経験があって、胸が軋んだ。

今なら私はちゃんとわかる。
誰が何と言っても、
自分にはかけがえのないものなのだからそれでいい。
自分だけにしかわからない特別なことを、
ひとつひとつ味わってゆけば、それで充分なのだと、
今は強く思える。

・・・最後にそう結ばれていて、私はここでジーンと熱くなった。

「ハナレグミを知らない」という人に時々出会うことがある。
「サヨナラCOLOR・・・知らないんだ」
・・・心の中でふとそう思う自分がいる。

“スぺーシャル・トゥー・ミー”だ。
こんな時こそ、このことを教訓として己を戒めている(笑)。
自分の好きなものをむやみに薦めたりはしない。

「ハナレグミを聴いてみたい」ってもしも人に言われたなら
(言われてないけど・笑)、私の好きな3rdの盤は薦めない。
これは私にとってのスぺーシャル・トゥー・ミーで、
きっと万人のそれではない。そう感じる。
愛しいと思って止まないこのジャケだって、
万人向けじゃない気がするし(弱腰なハナレファン・笑)。
『光と影』が入った『あいのわ』を薦めたりするだろう。
・・・スぺーシャル・トゥー・ミーってそんなものだと思う。


先日、ハナレグミを観た吉祥寺の“キチム”は、
ずっと行ってみたかったカフェだった。
キチムの前は、“クウクウ”という料理店だった。

「おいしいハレの料理を作ってきましたが、
 ひとりの主婦であり、料理家として、
 日々のつまらないご飯のことを、
 もっと大事にしたいと思ったことがきっかけです」

クウクウのシェフだった高山さんはそう話されてお店を辞めた。
同じ家庭料理人の主婦として、
「こういう感覚、好きだな」って思った。


後に、高山さんは、
『たべる しゃべる』というエッセイ本を出された。
大好きな“永積タカシ”が載っていたので、
正統派ハナレグミファンとしてしっかり読んだ(笑)。

その本の中には、
タカシくんが先日キチムで楽しそうに話してた
子どもの頃のハナシがたくさんあって、
懐かしく温かく思い出していた。

「猛烈に幸せであって、猛烈に悲しくなる時間が、
 そこにはいっぱいあったから」

キラキラした宝物のような温かい思い出で満ちてた。
人の幸せな大切な思い出話を聞いていたら、
こっちまで幸せな気持ちに包まれていた。


そして・・・もうひとつ。
この本は、今でも読み返すと、
キュンと胸が締め付けられてしまう。

“永積タカシ”という人の・・・
繊細で、傷つきやすくて、ナイーブで、
アーティストであるがゆえに痛みを負ってしまう、
そんな姿が訥々と綴られているんだ。

そんな彼の内側の一面を垣間見て、
キュンと胸が痛くなってしまう。

「見てはいけないものを見てしまったようで」
・・・高山さんはそう話されていた。
私も同じような気持ちになった。
今でもページをめくる度、そんな気持ちに包まれてしまう。

同時に・・・
プロの表現者としての彼の姿に、ただただ敬服してしまう。

「いちいち一喜一憂したいの」
「その瞬間、何かの気持ちでいっぱいになりたいの」
・・・“歌うこと”にどれだけの情熱を注いでいるか、を知る。


私はこの本の中で、いちばん好きなハナシはここ。
いつも胸の中がじんわり温かくなってしまう。

「悲しくない時に、悲しいなんて言えないよね」と、
タカシ君は言います。
子供のころ、マンガを描くのが好きだった。
主人公の悲しい顔を描いている時は、
つい自分まで泣きそうな顔になっている。
今でも歌いながら、
「いちいち、固まりみたいな気持ちがボカンと出てくる」そうです。

私が彼の歌を愛せずにはいられない理由は、
きっとこんなところにもある。
私は、彼の少年のように直向きで、
“歌うたいとして前のめりな姿”が大好きなんだ。

「ひと言でポンて終わらせるのが、なんか悔しいの。
 いっしょのものを、1ミリでも感じてほしいからさ」

彼はどこまでも表現者ね。
もう、カッコよくて素敵すぎるじゃん。
読む度にそう感じ、ページを閉じる。


そう言えば・・・
この頃は、“永積タカシ”ってクレジットだった。
『あいのわ』から、“永積崇”に変わってた。
彼の中で、何が変わったのだろう。
別に何も変わってないけど・・・って、
メガネの奥でにっこり笑うかもしれないけれど。

ありふれた暮らしの中で、
ありふれた言葉に気持ちが入る瞬間って
時々こうやって訪れてくれる。
年を重ねていくのってまんざらでもないな。
そう思う。

とっておきのスぺーシャル・トゥー・ミーにだって、
ありふれた毎日の中で、
こうやってちゃんと出会えているし。
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by kurin1022 | 2013-07-22 09:41 | ハナレグミ | Comments(8)
Commented by kou at 2013-07-23 17:23 x
このアルバム、好きです。なんとなく音楽聴きたい時や
疲れてホッとしたい時のBGMに最高です。
宅録なので、コアなファン好みなのかな~とは思いますが(笑)。
高山さんの(存在も)本のこととか、今まで何も知りませんでした。
この日記で知ることが出来て嬉しいです。読ませていただけてほんとに良かったです。
なんかジーンと温かくなりました。知れば知るほど、崇くんって素敵って思います。

>ずっと気になってた人と話が出来て、
 「それ、私もそう」って分かち合えた時の喜びにも似てた。

私にとってのくりんさんはお会いしてお話ししてみたいなって思ってしまう方です。
そんな気持ちにさせてくださる文筆家さんです。
Commented by kurin1022 at 2013-07-23 21:23
♪ kouさん

ぶ、文筆家って・・・め、滅相もないですよ。びっくりしました。
ただ好き勝手に思いのまま書いてるだけですよ。

“スぺーシャル・トゥー・ミー”って言葉、大好きです。
今は知らない人はいないだろうけれど、私はほんの5年くらい前は、
「“斉藤和義”って一体誰ぞや?」って言われまくってましたよ。
軽くあしらわれてた感もあった(勝手に卑屈になってしまっていたのかもしれません)。
今・・・“ハナレグミ”ってどうなんだろうって思ったりします。
なんとなくそういうこと訊くのって・・・実は小さな勇気が必要だったりするんです。
バカみたいでしょ。でもほんとなの。だって宝物のことを話すわけですから。
人にはあまり理解を得られない“スぺーシャル・トゥー・ミー”なことが、
自分の今までの人生の中で結構ある気がしているからです。
崇くんと一緒で(おこがましいけれど・笑)、
どうせならしっかり感動したいタチなんですね、きっと私は。
感動って、人に話したくなるのは自然なこと。情熱が湧いてくるわけだし。
Commented by kurin1022 at 2013-07-23 21:23
(続きです。長くてすみません)

そういう時・・・“スぺーシャル・トゥー・ミー”って言葉に何度も背中を押されました。
自分にはかけがえのないものなのだからそれでいい・・・と。

このアルバム、いいですよね。
華やかな音が自分には要らなくなる(拒みたくなる)時期が時々あって、
そういう時のために崇くんが創ってくれたんだと、勝手に思ってます。
kouさんも好きなんですね~♪
なんか嬉しいです。他のミュージシャンの時にはこういう感慨ないのですが・・・。
崇くん絡みだと・・・なんでも“音タイム”な気持ちに包まれちゃうな。
不思議な人です・・・彼は。
Commented by アパ at 2013-07-24 12:33 x
高山なおみさん 感覚がするどくて好きなんです^^
ハナレグミこのアルバムの中では一番ありふれた言葉が好きです。
原曲ももちろん素敵なんだけど、原曲とは違ったフワリ・・・とした
空気感がしっくり来ちゃって。
ネットに翻弄されたくないので(再び:笑)自分のブログもめったに
ログインしないのですが自分のブログのログイン前にくりんさんの
とこに来ました^^今回の記事を読んでビックリしました!
なぜかというと、ここ1ヵ月くらいずっとずっと、そして今も繰り返し聴いている
アルバムがまさにこれだったの。シンヨク!←長いから勝手にシンヨクと
呼んでおります。いや~すっごくビックリした。
家にいる時何時間もこのシンヨクばかりかけっぱなしです(笑
Commented by kurin1022 at 2013-07-24 21:00
♪ アパさん

・・・なんかとっても嬉しいんです。
「アパさんもそうなんだ~」ってなんかジーンってなるの。崇マジックね、これも。

新欲アルバムってなんなんだろね。ほんとに・・・なんて愛おしい盤なんだろ。
聴き出したらこればっかりにさせちゃったりしてさ。そんな時期が定期的に訪れてくるし。
新欲は素朴な音で好きだし、楽曲も好きなのが多いな。
『ねむるのまち』とか“くるり”の『男の子と女の子』とか。
中でも『ありふれた言葉』はほんといいよね。
最近、崇くんに取り憑かれてるから(笑)いっぱい語りたくなっちゃってる私(笑)。
偉そうに分かった風に言ってる・・・って重々自覚してる。
けど・・・この歌は“歌うま”な崇くんの魅力が120%出てると思うの(また語る懲りない私・笑)。
崇くんの魅力って、“明るく跳ねた感じの歌唱”にまずあると感じるの。
この歌って・・・そうじゃん。で・・・フッといい感じに力を抜いてラフにも歌ってるし。
途中に入る男っぽい掛け声(?)みたいなトコも好きだし。いいな、この声。
明るく跳ねても静かに歌っても深いけどね、声はいつも。
Commented by kurin1022 at 2013-07-25 06:47
(続き。長くてごめんね・・・もうちょっといいですか・笑)

今野氏が『hana-uta fes.』の『スパゲッティーのびのび』の中で、
『上を向いて歩こう』を歌ったところはシビレましたね。

ある作家曰く、
「喜びを内に隠しておくよりも分かとうとする心が、そのまま自分の喜びになる」
「思わず人に伝えたくなるような、喜びに溢れた暮らしをすることが大切」・・・ですって。
なんかさ・・・人に話したくなっちゃうようなことが崇絡みで多い昨今だったから、
この言葉が沁みました。「言いたくなって、いいんだ」って励まされました。
Commented by ヒナ at 2013-07-28 13:39 x
これ、本のパクリ(失礼)だったんか!なんも知らないでいました。
パクリがいあるタイトルやなぁ(笑)。そう思った。
「帰ってから、映画の録画観てもいいようにと思ったのだ。」でした、今日は。
私は、『ボク・モード キミ・モード』と『踊る人たち』はバタードッグのアレンジより、
断然こっちのが好きやわ。なんか気がつくと結構聴いてるなぁと思う。
このアルバムって、ほんまなんなんやろ(笑)。
高山なおみさんって、いくえイモリに出てた人かな?知ってる?
ジャケは・・・ハナレファンとしては愛着あって彼らしくて好きやけど。
人様に大手振って「いいでしょ!」って薦める勇気はなんかありません(笑)。
Commented by kurin1022 at 2013-07-29 18:51
♪ ヒナさん

高山さん、いくえイモリに出てたよ!
実家のオカンはTVの料理番組(きょうの料理、3分クッキング、他もろもろ・・・)を、
毎日欠かさず観て創って、美味しいものはちゃんとレシピノートに残すという
大の料理好きだったりします(見習いたいものです・笑)。
だから、高山さんの料理は母からの又聞きが多いです。この人のは美味しいし簡単。

『ボク・モード キミ・モード』はバターの時のアレンジも好きだったりします。
クチビルプルプルのトコとか(笑)、「スウィンギン♪」って叫ぶように歌うトコとか。
ジャケ・・・ふふふ。ノーコメントにしとく(笑)。
「帰ってから、“浜田省吾の最後のTV出演録画”観てもいいようにと思ったのだ。」
・・・今日の私はこんな感じでした。
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